第124章

「もう待つ必要なんてないわ」

松本凛は身を屈め、声を落とした。残酷な愉悦が、言葉の端々に滲む。

「立花千時が戻ってきて助けてくれるとでも? N市の沿岸警備隊は、もう捜索船を引き上げた。東川の河口――何十メートルもある崖だよ。あいつは銃弾を二発もらって落ちた。死体なんて、とっくに大西洋の魚に食い尽くされてる」

松本彩世の全身が、びくりと震えた。

何度も何度も、自分に言い聞かせてきた。立花千時は死なない、と。

けれど、その事実を残忍に剥がされ、顔面に叩きつけられた瞬間――心臓が、鋭い鉤爪で握り潰されたみたいに痛んだ。

息が詰まり、喉の奥に濃い鉄の味が広がる。

彩世は奥歯を噛み締め、...

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