第13章

立花千時はそれ以上何も言わず、ただ小さくうなずいた。

「大丈夫。帰ったらちゃんと休んで。手稿の件は、いつでも連絡を取り合おう」

車窓がゆっくりと上がり、マイバッハは滑るように交差点を離れていく。

その車体が流れに完全に吞まれるまで、新谷寒季の瞳に沈んでいた剣呑な光は、ほんのわずかしか薄れなかった。

彼はなおも松本彩世の腰をきつく抱えたまま、半ば抱きかかえるようにして自分の車へ連れていく。

「彩世。今後は立花千時に近づくな」

新谷寒季は顔を寄せ、露骨な嫉妬を隠しもせず、もっともらしく言い聞かせた。

「外の男なんて、ろくなもんじゃない。あいつが親切にしてくるのは、絶対に裏がある。善...

ログインして続きを読む