第28章

 彼の、さっきまで寸分の隙もなかったはずのオーダースーツは、いまやどこか乱れている。ネクタイも引き抜かれたように緩い。――松本凛を落ち着かせ、ようやくこの場へ戻ってきたのが見え見えだった。

 ほとんど同じタイミングで、新谷寒季も顔を上げる。

 視線がぶつかった瞬間、寒季の目は立花千時を通り越し、背後の病室の扉へ突き刺さった。

 いったん押し殺したはずの嫉妬と暴力性が、火山みたいに噴き上がる。

 寒季は大股で詰め寄り、目を真っ赤にしながら千時の襟元を鷲掴みにして、冷たい壁へ叩きつけた。

「立花千時、てめぇ……なんでここにいる」

 歯噛みする声。こめかみの血管がどくどくと脈打つ。

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