第29章

彼は画面すら見ずに通話を切り、スマホを無造作にサイドテーブルへ放り投げた。

「仕事、行って」

松本彩世はゆっくり目を開け、天井に視線を置いたまま淡々と言った。自分とは無関係の話題でも口にするように、声に波がない。

「どんな仕事より、君のほうが大事だ」

新谷寒季は彼女の冷えた指先を両手で包み込み、深い瞳に確信めいた熱を宿す。

「言っただろ。今夜はここにいる。一歩も離れない。誰から電話が来ても出ない」

――そう誓ったそばから。

サイドテーブルのスマホが、執拗に鳴り出した。

新谷寒季の眉間がわずかに沈む。彼は迷いなく再び切った。

だが、相手は引かない。切って一秒もしないうちに、画...

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