第30章

 今夜、松本凛が転んだのは確かに松本彩世が原因だった。そう思い出した途端、胸の奥に巣食っていた苛立ちは、細い罪悪感に塗り替えられていく。

 新谷寒季は声を柔らげ、ベッドのそばへ歩み寄ると、伸ばした手で松本凛の掛け布団の端をそっと整えた。

「彼女を責めてるわけじゃない。ただ……体が心配なんだ」

 松本凛は頭の回転がいいほうではない。けれど幼い頃から耳にしてきたものがある。渡辺春帆の“立ち回り”を、いい具合に真似る程度には。

 寒季の態度が緩んだのを見るなり、松本凛は白い腕を伸ばし、彼の服の裾をきゅっと掴んだ。怯えた猫みたいに、かすかに揺らす。

「寒季……私、ほんとに怖かった……」

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