第44章

「食欲ないの。食べないわ」

松本彩世は彼を一瞥もしないまま、そのまま寝室へ向かった。

「もう眠いの。明日も朝早くから会社だし」

新谷寒季は、その冷えきった背中を見つめて唇を開きかけたものの、結局なにも言えなかった。ただおとなしく、あとを追うしかない。

翌朝。

黒のマイバッハが、新谷グループ本社ビルの正面玄関に静かに滑り込んだ。

先に降りた新谷寒季は、すぐさま助手席側へ回り込み、これ以上ないほど丁重な仕草で松本彩世のためにドアを開ける。

今日の松本彩世は、白のトレンチコートを端正に着こなしていた。長い髪は後ろで無造作にまとめられ、化粧気のない顔には病的な青白さがうっすらと差してい...

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