第54章

彼女は値札すら確認しない。指先でハンガーラックをさらりとなぞり、優雅で迷いのない所作のまま言い切った。

「そのジャケットと、シルクのロングドレス。それからあのコートも。全部、私のサイズで。まとめて包んで」

販売員が一瞬きょとんとし、次の瞬間、弾けるように頷く。

「かしこまりました、新谷奥様!」

新谷寒季は松本彩世を見つめながら、心の中で血を流していた。ここは一着が平気で100万を超える。彼女が指を滑らせただけで、軽く1000万は飛ぶ。

だが今の彼に「待った」と言える余地など、どこにもない。松本彩世が試着室のほうを見さえしなければ、1000万どころか、この店を丸ごと買い取れと言われて...

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