第57章

鸭舌帽の男が容赦なく放り投げられ、大理石の床に叩きつけられた。

「ぐっ……」と鈍い呻きが漏れる。

手にしていた一眼レフも弾き飛び、つるりと磨かれた床を長く滑っていき――松本彩世の足元で、かすかに音を立てて止まった。

立花千時は上から男を見下ろした。金縁眼鏡の奥、視線は氷を打ったように冷たい。

言葉ひとつ発する前に、傍らの黒服の護衛が前へ出る。男の手首を靴底で踏みつけ、じわりと力をかけた。

「ぎゃあっ!」

悲鳴が跳ね、骨がきしむ、耳に痛い擦過音がした。

「誰に雇われた」

立花千時の声は低い。静かなのに、上に立つ者の決断の速さが滲む。

男は脂汗で額を濡らし、圧倒的な暴力の前に嘘...

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