第58章

下半身の衝動が、恐怖を完全に塗りつぶした。

瞳の奥に赤が差し、新谷寒季は松本凛の腰を乱暴に掴むと、そのまま粗く抱き上げた。

妊娠していることなどお構いなしに、彼は足早に廊下の突き当たりにある客間へ滑り込み――

鍵がかかる。

ほどなく、薄暗い客間の中で、荒い息と、衣擦れの音が絡み合い始めた。

主寝室と客間は、壁一枚しか隔てていない。

帝都の高級マンションは防音も一流だ。だが、深夜の静けさの中、隣から微かに漏れてくる艶めいた声は、毒を塗った針みたいに、まっすぐ松本彩世の鼓膜を刺した。

彩世は冷たいドアに背を預け、両手をきつく握りしめる。爪が掌に食い込みそうだ。

胃の奥に、いつもの...

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