第60章

彼女はまつげを伏せ、目の奥に揺れる複雑な感情をそっと隠すと、箸で麺をひとすくいして口へ運んだ。

酸味と辛味が利いた、深みのあるスープがたちまち舌を目覚めさせる。あれほど鬱陶しかったつわりのむかつきも、見事に押さえ込まれた。

「すごくおいしいです」

松本彩世は心からそう言った。胸の奥には、抑えようのない温かさがじわりと広がっていく。

食事を終えると、松本彩世は化粧室へ行こうとした。

テーブルに手をついて立ち上がったものの、怪我をした足首に力がかかった瞬間、ぐらりと身体が傾く。

すると立花千時がすぐさま一歩踏み出し、たくましい腕で彼女の腰のあたりをしっかり支えた。体重の大半を自然に引...

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