第62章

心臓がどくん、と跳ね上がった。どれほど松本凛を嫌悪していようと、あの腹の子は――自分の血だ。

「……分かった」

新谷寒季は短く言い、通話をぶつ切りにしてスマホをセンターコンソールへ放り投げた。

車内の空気が、いきなり不自然なほど静まり返る。

寒季は深く息を吸い、松本彩世へ顔を向けた。次の瞬間、焦りと罪悪感を塗り固めた表情が、器用に貼り付く。

「彩世、会社で緊急事態が起きた。海外絡みのM&A案件でデータに致命的な穴が見つかってさ。取締役が会議室で待ってる。今すぐ戻らないと」

その拙い芝居を見て、彩世は胸の奥で冷たく笑った。

「分かった」

表情は崩さず、声も波ひとつ立てない。

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