第78章

そう言い終えると、彼女は新谷寒季に反応する隙すら与えなかった。主寝室の洗面所へ早足で向かい、「バンッ」と扉を閉める。鍵がかかる音が、はっきりと響いた。

新谷寒季はキッチンに立ち尽くし、胸元までびしょ濡れになったシャツを見下ろした。眼底に、陰った苛立ちが走る。

慰めが欲しかっただけなのに――冷水を浴びせられたのは自分のほうだ。

洗面所の扉の前まで行き、中から聞こえる水音をしばらく聞く。耐えるように、軽くノックした。

「彩世、大丈夫か?」

扉越しに、松本彩世の冷たい声が返る。

「大丈夫。あなたは先に着替えて」

元々心が荒れていた新谷寒季は、残り少ない忍耐まで削り取られた。

濡れた...

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