第89章

松本凛は両足が床から浮き、両手で必死に新谷寒季の指をこじ開けようとした。だが、怒りに呑まれた男の力は異様なほど強い。まるでびくともしない。酸素が足りず、白目をむき、顔色は真っ赤から一気に青紫へ変わっていく。喉の奥から、砕けたような「……ガッ、ガ……」という音が漏れた。

恐怖が全身を覆い尽くす。死が、すぐそこまで来ている――新谷寒季は本気で、彼女を殺すつもりだ。

「た……助け……」

松本凛は歯の隙間から、かろうじて言葉を絞り出した。力の入らない手で新谷寒季の腕を叩き、腹の子で男の理性を呼び戻そうとする。

「……子ども……!」

「子ども?」

新谷寒季の顔が歪む。瞳の奥に宿るのは、背筋...

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