第9章

彼女はゆっくりとルームウェアのポケットからスマホを取り出し、マナーモードに切り替える。カーテンの隙間へレンズを向け、そのまま録画ボタンを押した。

画面の赤い点が、ちかちかと瞬く。

松本彩世の目は凪いでいた。手元はぶれない。新谷寒季の薄っぺらい優しさも、吐き気のする偽善も――その裏に隠れた浮気と算段の「動かぬ証拠」も、逃さず一秒たりとも欠かさず収めていく。

録画を止める。

動画を暗号化し、クラウドへアップロード。

そして、何事もなかったかのように足音を殺してベッドへ戻った。

翌朝。新谷寒季は案の定、早起きだった。

高級仕立てのスーツに袖を通し、姿見の前で、ゆったりとネクタイを結ぶ...

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