第93章

スイス、チューリッヒ。

窓の外では細かな雪が舞っているのに、プライベート病院の個室は春みたいにあたたかかった。

松本彩世はベッドの背に身を預け、頬にはようやく血の気が戻りつつある。

落水が引き金になった肺の感染も、最高レベルの医療チームの手で、少しずつ快方へ向かっていた。

この半月、立花千時は立花グループの欧州での付き合いをほとんど断り、仕事場そのものを病室の外にある応接スペースへ移していた。

病室のドアが開く。

上質なダークカラーのコートをまとった立花千時が入ってきた。外の冷気をそのまま連れてきたみたいに、肩口がひやりとして見える。

彼はコートを脱いで付き添いのスタッフに預け...

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