第96章

警察があんなに早く事件を片づけたのも、DNA鑑定の結果すら出ていないのに――新谷寒季が彼女の死を確信したのも、全部つながった。

「遺体は海に長く浸かっていて、顔の特徴は完全に潰れていた。だから、君が失踪した日に着ていたのと同じ服に着替えさせて、指には偽物の結婚指輪をはめさせたんだ」

立花千時は水のグラスを持ち上げ、一口だけ含む。冷ややかな眉目の奥に、上に立つ者の余裕と計算が透けて見えた。

「人間は、恐怖と崩壊の瀬戸際に立つと判断力を失う。新谷寒季は指輪を見た瞬間、完全に壊れた」

松本彩世は黙って聞いていた。胸の奥は、不思議なほど凪いだまま。

「……彼は、今どうしてるの?」

「目も...

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