第91章 彼女は自由だ

神崎優里は落ち着いた手つきで眼鏡を押し上げた。

「どういたしまして。それに、この件を引き受けたのは、あなたのためだけじゃないの」

――三十分ほど前。

ほとんど連絡も寄こさない兄から、いきなり電話がかかってきた。

内容は、茅野芽衣という女のふりをしてほしい、というものだった。

そう。兄は相馬悠真。

そして優里の父は、セイゲン・ホールディングス取締役会長・神崎英明。

本来なら首を突っ込む気はなかった。

神崎家ではずっと表に出ず、研究室に籠もって研究ばかり。人付き合いも得意じゃない。

けれど兄は譲らなかった。

「茅野芽衣は、俺の未来の嫁だ」と。

――兄の幸せのため。

神崎優...

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