第104章 撮影場所は藤井家で、彼を旦那と呼ぶ

氷室家本邸。

百年以上の時を刻む和風の屋敷は、古雅な気配をたたえ、どこまでも風雅だった。

氷室蒼生は車を降りるなり、いつもなら崩さない落ち着きを置き去りにして、歩調を速めた。

ヤマザクラと紅い蔓薔薇が咲き誇る庭を回り込み、風に揺れて影を落とした竹の回廊を抜け、古い石を組んだ反り橋を渡る。

普段なら、池の水面を泳ぐ鯉に目を留めて足を止めるところだ。だが今は、優美な魚影に目をやる余裕すらなかった。

人の出入りでざわめく広い屋敷の中、使用人たちが一斉に頭を下げる。

「蒼生様、お帰りなさいませ」

蒼生は険しい顔のまま、眉間に陰を落とした。

氷室正樹の部屋の前に立った瞬間、呼吸がわずか...

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