妻略奪

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ほしの なお · 連載中 · 368.1k 文字

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紹介

結婚3周年の記念日に妊娠を告げようとした私。だが、夫の隣にいたのは子どもを身ごもるほかの女だった。
「跡取りのためなんだ」と、私を縛り付けようと必死に言い訳をする夫。
失意の底に突き落とされた私は自分の妊娠を隠し、離婚届を突きつけて彼の前から姿を消した。

そして華やかなスポットライトを浴びて私が界隈に戻ってきたとき、私は一人ではなかった。私の傍らには、この街で最も謎に包まれた最強の権力者が寄り添っていた。

嫉妬に狂った元夫が私を壁に追い詰める。
「お前は俺のものだ! 家に帰れ!」
だが、その大富豪が私を優しく抱き寄せ、氷のような冷たい視線を元夫に向けた。
「手を離せ。彼女は今、俺のものだ」

愛と復讐が絡み合うこの三つ巴の戦いで、最後に彼女の心を射止めるのは一体誰――?

チャプター 1

四万フィートの高空。ビジネスジェットの機内——。

バスルームのドアが開き、男がバスローブを羽織ったまま出てきた。

腰紐は適当に結ばれているだけ。くっきりと割れた胸筋には、どこか生々しい赤い痕がいくつも残っている。

歩くたび、ローブの裾から長い脚がちらりとのぞく。太腿の筋肉は引き締まり、力強い。

藤井修也は思いもしなかった。自制と礼節を重んじてきた自分が、まさか一万メートルの空の上で、こんな馬鹿げたことをする日が来るなんて。

出てすぐ、ベッドに横たわる女が目に入った。膝を軽く曲げ、腰の下に枕を当てている。

底の見えない彼の視線を受け、女は言い訳するように囁いた。

「修也、お医者さまが……このほうが妊娠しやすいって」

藤井修也は目を伏せ、立花結月を見下ろした。完璧な顔立ちには、まだ情欲の名残が消えない。頬は艶やかに紅く、瞳の奥には湿り気が膜のように漂う。黒髪は枕にやわらかく広がっていた。

数年、彼に大切に囲われてきた立花結月は、甘く艶めいている。わざと媚びなくても、柔らかな声で口を開くだけで、どうしようもなく従順に見えた。

男はゆっくり身を屈める。落ちた影が結月を覆い、手が頬を撫で、柔らかく小さな耳たぶをつまんだ。

掠れた低い声が、底なしの色気を帯びる。

「……それで、医者は他に何か言ってたのか?」

医師の言葉が蘇る。卵胞が成熟し、まもなく排卵。ここ二日が最も妊娠しやすい——。

だから彼女は「奇襲」を仕掛けたのだ。

立花結月は引退前の撮影で子宮を傷め、三年の妊活はことごとく失敗した。

ようやく体調を整え、彼が子どもを好きだと知っているからこそ、今回の排卵期はとりわけ必死だった。

夫婦になって久しいとはいえ、四万フィートの空の上は彼女にとっても初めて。

緊張で体が固まり、枕に顔を埋めたいほどだ。

「……な、ない」

そのとき、男が優しく囁いた。

「結月。結婚三周年、おめでとう。これからも……よろしく」

F国の空港に降り立つと、藤井修也は薄いブランケットで女を包み、抱えたまま機体を降りた。

布が少しずれて、女の足首が覗く。

冷たいほど白い肌——白磁のような足首に、薄い赤い痕が一本。妙に艶めかしい。

やはり噂は嘘じゃない。

藤井社長は妻を溺愛し、その素顔を誰にも覗かせないほどに大事にしている——。

海外での数日間、立花結月は愛の「極み」を思い知らされた。

藤井修也は仕事で多忙で、昼は会食続き。彼女はホテルで休み、夜になると彼は狼に変わる。

バスタブ、ソファ、床まで届く窓の前——。どこにも二人の痕跡が残った。

四日三夜。結月は彼と都市をひとつ、またひとつと移り続けた。

帰国当日、力尽きた彼女は藤井修也の腕の中に丸まり、腰を掴む手が執拗に悪戯を続ける。

押し返そうとしても、声は弱い。

「やめて……修也、疲れ……」

耳元で低い笑いが揺れ、男は腰の手をじわじわ締めた。瞳には甘い寵愛が浮かぶ。

「結月。たとえ一生子どもができなくても、俺はずっと君を愛する」

首元がひやりとした。男がネックレスを掛けてくれている。

彼は敬虔なほど優しく唇を重ねた。

「結月。いい子で、俺のそばにいて。……離れないで」

立花結月が次に目を覚ましたとき、家の大きなベッドの上だった。

適当にシルクのナイトドレスを着て、ふわふわのスリッパで階下へ降りると、松田さんがご馳走を並べていた。

「修也は?」

一緒に帰ってきたはずなのに、姿がない。

「旦那さまはまだお付き合いがありまして。奥さまのために滋養のスープを煮るよう、わたしに言いつけていかれました」

松田さんは目を細める。

「本当に奥さまを大事にしていらっしゃる。花室から奥さまの好きな薔薇を摘んで、少しの間、寝顔も見守ってから慌てて出ていかれましたよ」

テーブルの艶やかな花束を見て、結月は口元に淡い笑みを浮かべた。

平らな下腹にそっと触れる。三年の間、子どものことで何度失望しただろう。

今度こそ——。

必ず、授かりたい。

スマホを開くと、芸能ニュースの通知が出ていた。三流女優の熱愛発覚、恋人が現場に差し入れに来たところを撮られた——。

ぼやけた男の輪郭。スーツ姿。結月の視線が一瞬、固まる。

すぐに目を逸らし、さっき頭をよぎった考えが滑稽に思えた。

まさか藤井修也なわけがない。幼なじみとして十八年。世の男が全員浮気しても、彼だけは絶対にしない。

食後、結月は花や草の手入れをした。

日が落ちるころ、藤井修也が最後の陽光を踏んで庭に入ってくる。

灰色のスーツに夕日が差し、薄い光の輪郭が彼を包む。柔らかな顔立ちは端正で、欠点がない。

誰が想像するだろう。二人が最底辺の泥から這い上がってきた人間だなんて。

彼は無二の気品を纏い、落ち着いた佇まいで、まるで絵に描いたような社長だった。

白いワンピースの結月は花束を放り出し、駆け寄る。

「修也、おかえり」

藤井修也は手を伸ばし、彼女の髪をくしゃりと撫でた。

「休めたか?」

彼女は軽く胸を叩く。

「ばか。もうあんな無茶、しないで」

男はその手を取り、唇でそっと触れた。

「うん。全部、結月の言うとおりにする」

こんなに優しい男が、どうして裏切れる?

結月はあの芸能ニュースを、完全に頭の隅へ追いやった。

それから藤井修也は家にほとんどいないまま、海外出張を繰り返した。大型案件を取るため、息つく暇もない。

結月の生理が三日遅れている。

忙しい彼に、今は言わないでおこう。

彼女は複数のメーカーの検査薬を買い、緊張と不安を抱えたまま試した。

三年だ。傷めた体のせいで、薬も注射も数え切れないほど。

期待しては裏切られ、また裏切られ——。今回も大きな希望は持てない。

結果を待つ数分が、焦りで胃を締めつける。

タイマーが鳴り、結月ははっと目を開けて検査薬を見る。

「……」

その瞬間——。

コンコン、と控えめなノックが響いた。

びくりとして手が滑り、検査薬が床に落ちる。

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