第12章 彼女の頬は、とても柔らかい

白石莉緒が彼のスーツの裾をぐいっと掴んだ。身を折るようにして、片手で腹を押さえながら、

「藤井社長……お腹が、すごく痛いんです」

こんな下手な芝居、見抜けないほうがどうかしている。

けれど――この子は、彼女にとっていちばん大事な切り札だった。

白石莉緒は泣きそうな顔で藤井修也を見上げる。

「藤井社長、わたし……」

だが返ってきたのは、骨の髄まで凍るような視線。

もし視線に形があるなら、彼女は何千何万本もの氷の針で縫い止められていただろう。

「離せ」

たった一言。

背筋がぞくりと冷え、白石莉緒は慌てて指をほどいた。

藤井修也は振り返りもせず、立花結月が去った方向へ全力で駆...

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