第120章 あいつに娘のあとを追わせる

氷室蒼生は落ち着き払った手つきでリンゴに刃を入れ、ふと視線を上げて立花結月の反応をうかがった。

結月の顔には、緊張の揺れひとつない。ただ、淡々と問い返す。

「……死んだの?」

「いま救命処置中だ。だが手首を切った程度なら、発見が早ければ致死率は高くない」

立花結月は何かを確信したように、かすれた声で呟いた。

「死なないよ。あの人は……同じ痛みを味わいたいだけ」

自分が流産で、あれほど血を流したから。だから彼は手首を切った。

夫婦として過ごした年月がある。彼の浅はかさも、見栄も、痛いほどわかる。

――それで、全部チャラになると思っているの?

ありえない。

藤井修也も、藤井知...

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