第15章 彼女は氷室蒼生の手をつかんで夫と呼ぶ

松田は、今にも噛みつきそうな藤井修也の目と真正面からぶつかった。

「わかりません。ただ……奥さまは出かける前に、今夜は夕食の用意はいらないって。たぶん、お友だちとお食事じゃないでしょうか」

言い終える間際、彼女はわざとらしく、傷口に塩を擦り込むように付け足す。

「お友だちって言っても……男性なのか女性なのかは知りませんけど」

そう言い捨てて花室へ消えたあとに残ったのは、冷気を纏った藤井修也だけだった。

藤井修也は知っている。彼女には芸能界に心からの友人などほとんどいないし、連絡もとうに途絶えている。

――また、あの男か。

中島秘書へ電話を入れる。

「昨日の午後、G市からK市へ...

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