第60章 好きに触っていい

立花結月はぱっと頬を赤らめ、反射的に車から飛び降りた。

慌てすぎて、危うくドアに額をぶつけそうになる。氷室蒼生が身を乗り出して彼女を支えた。

「ゆっくり。結月、転ぶぞ」

近づいた瞬間、冷たい松と檀の香りがふわりと鼻先をかすめる。なぜだか、それだけで胸の奥がすっと落ち着いた。

張り詰めた神経を見透かしたのか、いつもは感情を見せない唇が、わずかに弧を描く。

「子どものころ、俺に酢漬けのニンニク食わせた勢いはどうした。今さら俺を見ただけで、そんなに緊張するのか?」

「……っ」

子どものころ――その言葉ひとつで、さっきまでまとわりついていた説明のつかない空気が、嘘みたいにほどけた。

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