第68章 氷室蒼生が彼女を胸に抱き寄せる

藤井修也が外へ出た瞬間、立花結月がふいに前のめりに崩れた。胸の奥がどくんと跳ねる。

「結月!」

骨ばった輪郭のはっきりした手が、紳士的に結月の肩を抱き留める。倒れ込む勢いが、そこで止まった。

結月の額が、硬い胸板にそっと触れる。

支えられたその一瞬、結月は怖かった。――藤井修也だったら、どうしよう。

恐る恐る顔を上げると、視界に入ったのは黒のロングカシミヤコートを纏った氷室蒼生だった。黒のハイネックが、白磁みたいな喉仏にやわらかく沿っている。

至近距離だからこそわかる。細いカシミヤの毛並みが、全身黒の男にさえ、どこか温度を与えていた。

……よかった。氷室蒼生だ。

蒼生は視線を...

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