チャプター 10

スカーレットは今の身体では、アレクサンダーにまともに抵抗できる状態ではなかった。

彼に助手席へ押し込まれ、そのまま小さなヴィラまで運転されるのを受け入れるほかなかった。

そのヴィラを、スカーレットは嫌というほど知っている。付き合い始めた頃、彼女が時間をかけて選び、買い求めた「愛の巣」だった。

周囲は静かで、それでいて人里離れすぎてもいない。

室内の隅々にまで、過去の恋の痕跡が染みついていた。スカーレットの意見を取り入れながら、アレクサンダーが設計したものだ。

もし二人の関係が滞りなく結婚へ進んでいたなら、ここはきっと、いちばん居心地のいい家になっていたはずだった。

だが今となっては、彼女にとって胸をえぐる場所でしかない。

どうしてこの家がアレクサンダーの手に渡ったのか、スカーレットには見当もつかなかった。

あのとき彼女は慌ただしく去り、家は友人を通じてすぐに売却された。買い手の提示額は悪くなく、差し迫った金銭問題を和らげる助けにもなった。

その後、彼女がフェニックス・シティへ戻ってきたときでさえ、この場所のことなど一度も思い出さなかった。

スカーレットはアレクサンダーを見た。視線が重く沈む。

アレクサンダーは車を降りるつもりがないらしく、ヘッドライトを点けた。庭の片隅が照らされ、花の群れが咲いているのがかすかに見える。はっきりとはしない。

記憶が正しければ、そこには彼女が植えた薔薇があるはずだった。

スカーレットは深く息を吸い、鼓動を落ち着かせると、シートベルトへ手を伸ばした。「送っていただいてありがとうございます、キングさん。ほかにご用がなければ、私はこれで失礼します」

アレクサンダーと昔話をするつもりなど、彼女にはなかった。

だがアレクサンダーが、彼女の手をつかんだ。

冷えた声が落ちる。「熱がある」

何か言い返そうとしたときには、もうアレクサンダーは車を降りていた。

別れたとはいえ、かつては誰より近い二人だった。スカーレットは瞬時に、彼の意図を悟った。

彼が車体を回り込む間に、スカーレットは慌ててベルトを外し、急いで車を降りた。

だが外へ出た瞬間、脚から力が抜け、地面に崩れ落ちそうになる。

幸い、アレクサンダーが素早く腰を抱えて支えた。

冷たい表情がようやくわずかに緩み、彼はくつりと笑ってからかった。「自分から俺の腕に飛び込んでくるのか?」

スカーレットが返事をする間もなく、彼は彼女を抱き上げ、そのままヴィラへ運び込んだ。

スカーレットは嫌だった。

腕の中でもがいたが、アレクサンダーはその小さな抵抗など意にも介さない。

中へ入ってようやく、スカーレットの足が床に下ろされた。

すべてが、三年前のままだった。

目の奥がつんと痛み、スカーレットは反射的に逃げようとした。だがアレクサンダーに扉へ押しつけられる。

背中にぴたりと寄り添われ、熱い息が肌を焼くほど近い。

逃げ場はなかった。

息が速くなる。目の奥がひりつく。

アレクサンダーの右手が、彼女の背へ回った。

今日のスカーレットは、身体に沿う黒いドレスを着ている。背中はレース地で、小さく切り抜かれた意匠があった。

肌に触れる温かな掌に、ぞくりと震えが走る。

アレクサンダーは背後で歯を噛みしめた。「スカーレット、この場所と向き合うのが怖いのか?」

平静を装うだけで、スカーレットは力の限りを使った。

もちろん怖いに決まっている。

罪悪感がある。

だが、アレクサンダーは何が言いたいのだろう。

この場所を買い戻して、感傷に浸っているふりでもするつもり?

彼女に傷つけられたのに、いまさらまだ引きずっているなんて、ありえないだろう。

そこまで自惚れてはいない。

スカーレットは嘲るように唇を歪めた。「キングさん、どうしてここへ連れてきたんです? 昔を懐かしむためですか?」

その物言いが、アレクサンダーの怒りを見事に焚きつけた。

彼は彼女の肩をつかみ、無理やり自分のほうへ向かせる。

スカーレットは彼を見ようとせず、ただ目を閉じた。

その反抗が、アレクサンダーをいっそう苛立たせた。

ザックに絡まれ、いまにも嬲られそうになっていたスカーレットを目にして以来、彼の感情はぐしゃぐしゃだった。

怒り、恐怖、戦慄――。

彼はパルス・ソサエティで、あやうくザックを殴り殺しかけた。

いまもなお怒りは収まらず、正気をかろうじてつなぎ止めながら、スカーレットは病人なのだ、怖がらせてはいけないのだと、何度も自分に言い聞かせていた。

だが、その最後の理性は、スカーレットの黙した反抗の前で少しずつ剥がれ落ちていく。

アレクサンダーが彼女の腰をつかむ手に力を込めると、スカーレットは痛みに眉をひそめた。それでも目を開けようとしない。

アレクサンダーの唇が嘲るように歪む。「目を開けないつもりか? キスしてやろうか」

腕の中の女は、すぐさま目を開いた。

そこまで俺が嫌いか。

アレクサンダーの表情が、さらに冷たく沈む。

右手が彼女のドレスの切れ込みへ滑り、すべらかな肌を弄ぶようになぞった。

スカーレットがまた身をよじったが、彼は抵抗を無視し、元恋人の戯れのように受け流した。

アレクサンダーが問う。「どこを触られた?」

スカーレットはすぐには反応しない。

アレクサンダーは繰り返した。「ザックだ。どこを触られた?」

スカーレットの表情が揺れる。

だからここへ連れてきたのか。

落ちぶれた私を嘲るために?

瞳に走った痛みは一瞬で、アレクサンダーは見逃した。

スカーレットは手を上げ、アレクサンダーの首に腕を回して寄り添った。親密そうな仕草とは裏腹に、言葉は棘だらけだった。「キングさん、どこを触ってほしいんですか?」

「趣味の悪い私みたいな女が、ザックと関わるなんて、キングさんにとっては私が運がよかったって話でしょう?」

「もし、あなたが触ったところ全部を、あの人も触ったって言ったら? キングさんは私を汚いって思って、家から叩き出しますか?」

もうどうでもいい。

何が変わるというの。私は何年も、数え切れないほど中傷されてきたのだから。

アレクサンダーの反応は、すでにかなり穏当なほうだ。

――そう頭ではわかっていても、彼の前に立つと鼻の奥がつんと痛んだ。瞬きをした途端、涙がぽろりと落ちる。

アレクサンダーの喉がきゅっと詰まる。

彼はこれまで何度もスカーレットを泣かせてきた。だがそれは、情事の最中のことだ。彼女はいつもいじらしく、潤んだ目で優しくしてと乞うたり、快楽に震えながら胸にしがみつき、鼻先を赤くして泣いたりした。

しかし、ベッドの外で彼女を泣かせたいなど、彼は一度も思ったことがない。

スカーレットはさらに激しく泣き、華奢な肩が震える。

アレクサンダーの目が翳る。心臓が彼女の涙に浸され、じわじわと腫れ上がって痛んだ。

普段は冷静で、ビジネスの世界を軽々と渡り歩く男が、女の涙の前では手も足も出ない。

彼は目を閉じ、スカーレットをきつく抱き締めた。砕いてしまえるほど強く、二度とどこへも行けないように。

スカーレットは抱かれるのを拒み、力の限り押し返したが、アレクサンダーは微動だにしない。

彼は目を開けた。無表情でスカーレットを見つめ、胸中で荒れ狂う感情を押し殺そうとする。

「スカーレット……もし俺が現れなかったら?」

「マイクが君に出くわさなかったら、俺が間に合わなかったら、もし君が傷つけられていたら……」

スカーレットは遮る。腫れた目で睨み返しながら。「それはあなたには関係ない!」

彼は突然、彼女の肩をつかみ、喉奥の咆哮を押し込めるように言い放った。「スカーレット、俺に一生苦しめっていうのか!」

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