婚約者の叔父は元カレ

婚約者の叔父は元カレ

Eve · 連載中 · 233.9k 文字

403
トレンド
560
閲覧数
15
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

世間は狭い。契約上の婚約者の叔父が、まさかのアレクサンダー――三年前に私が振った元恋人だったなんて。

「そんなにあいつが好きなのか?」彼は歯を食いしばるように吐き捨て、燃えるような目で睨みつけてくる。「この数年、俺がどれだけ狂いそうだったか、わかってるのか?」

「恋人にしてくれ」彼は囁く。「おまえのそばにいさせてくれ」

これ以上ないほど心がぐちゃぐちゃだというのに、そこへ小さな声が割り込んだ――

「おじさん、うちのママのこと好き?ぼくのパパになってくれる?」

チャプター 1

「スカーレット、出番だ」

呼び出しを受けたとき、スカーレット・コリンズは担当アーティストのひとりが起こしたスキャンダル対応の真っ最中だった。

そのアーティストはようやく仕事が軌道に乗りはじめたところなのに、スキャンダルの渦中で交際を公表すると言って聞かなかった。

スカーレットは怒りで煮えくり返り、相手を落ち着かせるのに少し時間をかけた。衝動的に動くな、と言い含めて。

スマートフォンをしまい、振り返る。セバスチャン・ブラックがバーにもたれて、彼女を待っていた。

今日はブラック家の末っ子であるセバスチャンとの婚約パーティーの日だった。

女遊びで名の知れたブラック家の御曹司が、フェニックス・シティ随一の美女と婚約した。騒いでいるのはゴシップ紙だけではない。セバスチャンの友人たちも同じくらい衝撃を受けていた。

婚約パーティーのあとも、数人が「このまま祝おう」とブラック邸で二次会をすることになった。

だが外は暑すぎて、結局みんな屋内でビリヤードを始めた。

婚約がどれほど本気なのか、そしてスカーレットがどんな魅力でセバスチャンを虜にしたのか――彼らはそれを確かめたかったのだ。

スカーレットは髪をかき上げてセバスチャンに近づいた。背伸びして耳元へ顔を寄せ、ささやく。

「……やり方、わかんない」

ささやきというわりに、周囲に十分聞こえる声量だった。

案の定、野次が飛ぶ。「ほら、スカーレットに教えてやれよ! もたもたしてるの見てるとこっちが落ち着かねえ」

セバスチャンは笑って悪態をついた。「うるせえな!」

襟元のボタンをいくつか外したシャツが、気取らない雰囲気を作っている。彼は眉を上げてスカーレットを見た。「もちろん、教えるさ」

見せかけの婚約。体裁のためだけ。

今のスカーレットにとって、これが最重要の取引だった。

セバスチャンはスカーレットの背後に立った。婚約用の身体に沿うドレスが曲線を際立たせている。

彼はキューの握り方を直し、さらにその手に自分の手を重ねた。

距離が近ければ、触れ合いは避けられない。

少しばかり――いや、かなり親密に見える。

セバスチャンが身を引こうとしたそのとき、扉が唐突に開き、全員の視線がそちらへ向いた。

背の高い男が入ってきた。仕立ての完璧なスーツ。薄暗い照明が彼の輪郭を金色に縁取っている。

息をのむほど整った顔立ちで、鋭い目元がわずかに細められている。何かを値踏みするように。

スカーレットはその顔を見た瞬間、心臓が跳ねた。

どうして、ここに――?

セバスチャンが驚きに満ちた声を上げる。「叔父さん、戻ってたのか!」

「悪い。便が遅れてな。お前の婚約パーティー、間に合わなかった」男はさらりと答えた。視線がスカーレットに留まり、それから何事もなかったようにソファへ歩いていく。

セバスチャンは紹介をしていないことに気づき、スカーレットの手を引いた。「俺の婚約者だ。スカーレット。スカーレット、こっちは俺の叔父さん」

――アレクサンダー・キング。

スカーレットは心の中で名を補った。

不意の再会に、スカーレットは対応しきれなかった。まさかアレクサンダーがセバスチャンの親族だなんて。知っていたら、この取引に首を縦には振らなかった。

金はまた稼げる。だがアレクサンダーは、視界に入れるだけでさえ耐えがたい相手だ。

なにしろ。

彼女はアレクサンダーを二年間、囲っていたのだから。

そして「飽きた」と一方的に関係を終わらせたのも、彼女だった。

複雑な因縁に、スカーレットのこめかみがずきりと痛んだ。

彼女が黙っているのを見て、セバスチャンが取り繕う。「叔父さん、スカーレットはちょっと人見知りでさ」

人見知り?

アレクサンダーが眉を上げた。「そうか? さっきは、そうは見えなかったが」

ビリヤードのことを言っているのだろう。

スカーレットは奥歯が軋むのを感じた。まだ根に持っているの?

別れ際は気持ちのいいものではなかった。それでもスカーレットとしては、できる限りのことはしたつもりだった。

三年も経ったというのに、なぜ彼はまだ元の愛人のことを気にしているのだろう。

スカーレットはアレクサンダーと真正面からぶつかりたくはなかった。だが、黙ってもいられなかった。

彼女は甘い笑みを浮かべて言った。「セバスチャン、アレクサンダーがそんなに古風な人だなんて、知らなかったわ」

ざわり、と周囲が息をのむ。

スカーレットは正気じゃない――!

相手はアレクサンダーだ。

あのアレクサンダーを、皮肉る度胸があるなんて。

言い返したところで、胸がすっとするどころか、苛立ちと息苦しさが募るばかりだった。

髪をかき上げ、力なく言う。「外で少し、空気を吸ってくる」

セバスチャンはほっとした。偽の婚約者とアレクサンダーがそのまま取っ組み合いにでもなったら、と気が気ではなかったのだ。

初対面からすでに険悪で、セバスチャンには状況がのみこめない。どちらかが席を外すのが最善だった。

スカーレットが出ていくや否や、セバスチャンの携帯が鳴った。相手はエマ・ローソン。

何を言われたのか、通話を切るなりセバスチャンは慌ただしく二階へ駆け上がっていった。

友人たちは意味ありげな視線を交わし、理由を察する。

彼らはエマのことをよく知っていた。セバスチャンが最近付き合い始めた、有名人だ。二人は今まさに蜜月だった。

スカーレットはセバスチャンにとって、それほど重要ではないのだろう。

二階へ向かう前に、セバスチャンはふと思い出したように一同を見渡し、アレクサンダーに声をかけた。

「アレクサンダー叔父さん、急用ができた。スカーレットが帰りたがったら、誰かに家まで送らせてくれ」

アレクサンダーは黙ったままだ。

拒みはしない。ただ、ウイスキーのグラスを見つめている。

誰かが口を挟む。「婚約パーティーの直後にスカーレットを置いていくなんて、まずいんじゃないか? 父親に知れたら……」

別の男が鼻で笑う。「セバスチャンを知らないのか? あいつはその場の刺激が欲しいだけだよ」

アレクサンダーはその会話を聞きながら、セバスチャンの十年に及ぶ女遊びの遍歴を素早くつなぎ合わせていった。

彼女は――こんな男が好きなのか?

アレクサンダーはウイスキーを一気にあおり、立ち上がった。

外では藤の花が満開で、波のように垂れ下がっていた。

スカーレットは窓辺にもたれ、長い金髪を風に揺らしていた。細い腰の線がふと覗く。

花を一輪摘み、深く息を吸ってから、二階の化粧室へ向かう。

鏡の中の自分を見つめながら、今すぐここを出なければ、とスカーレットは思った。

階段へ引き返そうとした瞬間、大きな手が突然腰をつかみ、近くの部屋へ引きずり込まれた。

強盗――?

薄暗い室内で顔は見えない。反射的に、口を塞ぐ手に噛みついた。

容赦なく、深く。相手がくぐもった呻きを漏らす。

二人とも動きを止めた。

スカーレットはその声に聞き覚えがあった。

気づかないふりをしたが、相手はもう一度言った。「スカーレット……こんなに時間が経っても、まだ俺を憎んでいるのか」

「ごめんなさい。あなただとは思わなかった。でも、あの状況なら誰だって抵抗するわ」

アレクサンダーはスカーレットを見下ろし、嘲るように言った。「本当に?」

言い返そうとした、そのとき。壁の向こうから音がした。男が女をあやすような、甘い声と気配。

スカーレットは居心地の悪さに身を強張らせた。相手が誰だか、わかってしまったからだ。

ついさっき婚約したばかりのフィアンセ、セバスチャン。

そして、彼の本当の恋人、エマ。

つまりアレクサンダーは、これを聞かせるために彼女をここへ連れてきたのか?

「何がしたいの?」

アレクサンダーの声が低く落ちる。「お前を助ける。そしてブラック家に嫁がせないためだ。そもそも、お前みたいな女は……」

スカーレットは心の中でため息をついた。やはり彼は自分を嫌い、ブラック家に入るのを見たくないのだ。

これは自分とセバスチャンの取引だ。結婚するつもりなど最初からない。だが、それをアレクサンダーに言う気もなかった。契約は守る。

「それがどうしたの」

「セバスチャンは、私の婚約者よ」

向けられる視線が、ふいに熱を帯びるのを感じた。

「……本気で、あいつが好きなのか?」

最新チャプター

おすすめ 😍

令嬢の私、婚約破棄からやり直します

令嬢の私、婚約破棄からやり直します

88.7k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
皆が知っていた。北野紗良は長谷川冬馬の犬のように卑しい存在で、誰もが蔑むことができる下賤な女だと。

婚約まで二年、そして結婚まで更に二年を費やした。

だが長谷川冬馬の心の中で、彼女は幼馴染の市川美咲には永遠に及ばない存在だった。

結婚式の当日、誘拐された彼女は犯される中、長谷川冬馬と市川美咲が愛を誓い合い結婚したという知らせを受け取った。

三日三晩の拷問の末、彼女の遺体は海水で腐敗していた。

そして婚約式の日に転生した彼女は、幼馴染の自傷行為に駆けつけた長谷川冬馬に一人で式に向かわされ——今度は違った。北野紗良は自分を貶めることはしない。衆人の前で婚約破棄を宣言し、爆弾発言を放った。「長谷川冬馬は性的不能です」と。

都は騒然となった。かつて彼女を見下していた長谷川冬馬は、彼女を壁に追い詰め、こう言い放った。

「北野紗良、駆け引きは止めろ」
氷の君と太陽の私

氷の君と太陽の私

33.5k 閲覧数 · 完結 · 鍋部奈
裏切られ、後悔に溺れながら死んだ私は、恐れられ冷酷な婚約者が私を救おうと身を投げる姿を見た。

運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。

かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。

しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

25.2k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
最強ベビーと難攻不落のママ

最強ベビーと難攻不落のママ

16.8k 閲覧数 · 連載中 · 彩月遥
母親が再婚したため、田中春奈はずっと自分が家の中で異質な存在だと感じており、義父や姉との関係も良くなかった。
しかし、思いもよらない策略による一夜の過ちで、田中春奈は家を追い出され、故郷を離れて海外で学業を続けることになった。
その間、彼女はあの正体不明の男性の子を妊娠していることに気づく。
迷った末、彼女は子どもを産むことを決意した。
5年後、故郷に戻った彼女は江口匠海と出会い、次第に彼に惹かれていく。
しかし、ある事故をきっかけに、あのときの男性が彼であったことを知るのだった。
初恋よ、引き下がれ!

初恋よ、引き下がれ!

33k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
結婚してから、夫が私に触れたことは一度もなかった。
私は、彼を無性愛者なのだと思い込んでいた。……あの日、彼の裏切りを知るまでは。

夫の浮気が発覚したのは、相手の女が病院に運ばれたからだった。二人の行為があまりに激しかったせいだという。

そして、何よりも私を打ちのめしたのは、その相手が――私の実の妹だったという事実だ。

その瞬間、心臓を煮えたぎる油に放り込まれたような、耐え難い激痛が全身を貫いた。
元夫の後悔

元夫の後悔

29.4k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
私がまだ若い女の子だった頃、すべてを捧げれば本当の愛を手に入れられると思っていた。でも、あの男が妊婦を連れて私の前に現れるまで、私はこの何年もの間ずっと笑い者だったことに気づかなかった!

...彼を手放す時が来たのだ。彼が私を愛することは決してないし、私が彼の選択肢になることも決してないと分かっていた。彼の心は永遠に彼女のもの。彼はあの女の子に家庭を与えなければならなかった。

しかし、私が素直に同意し、自信に満ちて他のハンサムな男性とのデートを始めたとき、彼は後悔し始めた。
ブサイクな男と結婚?ありえない

ブサイクな男と結婚?ありえない

96.9k 閲覧数 · 連載中 · 来世こそは猫
意地悪な義理の姉が、私の兄の命を人質に取り、噂では言い表せないほど醜い男との結婚を強要してきました。私には選択の余地がありませんでした。

しかし、結婚後、その男は決して醜くなどなく、それどころか、ハンサムで魅力的で、しかも億万長者だったことが分かったのです!
偽物令嬢の逆転劇

偽物令嬢の逆転劇

10.1k 閲覧数 · 連載中 · ひかり
「泥棒女め、今すぐこの家から出て行きなさい!」

実の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
病弱な「お嬢様」の生きる輸血パックとして虐げられ、血を搾り取られ続けてきた日々。用済みになった途端、身に覚えのない盗みの罪を着せられ、婚約者からも冷酷に捨てられた。
元家族たちは、私が「貧しい田舎で野垂れ死ぬ」と信じて疑わなかった。

だが、彼らは何も知らなかったのだ。
私が、世界中のVIPが縋る伝説の名医であることも。
私を迎えに来たオンボロトラックが、実は国家機密級の超高級カスタムマシンであることも。
そして、私の本当の実家が、国さえも動かす世界屈指の超巨大財閥だということも!

「今まで苦労をかけたね、私たちの可愛いお姫様」
生き別れていた超過保護な両親と、各界の頂点に君臨する最強の兄たちに狂おしいほど溺愛されるシンデレラライフが幕を開ける!
一方、大切な「命の恩人」を自ら捨てた元家族たちには、破滅へと向かう絶望の後悔タイムが待ち受けていて!?

虐げられた天才少女が本当の愛と富を掴み取る、逆転ファンタジー、ここに開幕!
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

355.6k 閲覧数 · 連載中 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」
名門貴族との甘い結婚

名門貴族との甘い結婚

3.4k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
かつて勘当した娘がホワイトシティで名を馳せたことを知り、愕然とした。産業界の巨人、学術界の権威、そしてAリストの俳優たちが、彼女のおかげで成功を収めたと口を揃えて語った。彼女の元カレは、夢の女性を選んで彼女を捨てたものの、今や彼女を取り戻そうと必死に懇願していた。しかし、彼女のそばには、背が高くハンサムな男性が立ち、「私の妻に何をしているつもりだ?」と宣言した。
その男性こそ、ホワイトシティ一の大富豪だったのだ。
婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

25.1k 閲覧数 · 連載中 · やもり
裏切りと陰謀が渦巻く世界で、妃那(えな)は突然の誘拐事件に巻き込まれる。
救いの手を差し伸べたのは謎めいた男・葉夜(かなや)だったが、彼の真意は読めない。
一方、妃那の宿敵であり自信家の祈葉(いのか)は、自らの美貌と魅力を武器に黒社会の頂点を目指すが、
思いもよらぬ残酷な試練に追い込まれていく。
誤解と嫉妬、愛と憎しみが絡み合い、
それぞれの思惑がやがて一つの危険な運命へと収束していく――。
社長の奥様は、世界を震撼させる

社長の奥様は、世界を震撼させる

61.8k 閲覧数 · 連載中 ·
青山光は、最も信頼していた親友と男に共謀され、殺された。
亡くなる前に安田光は知っていた。自分を最も愛してくれていたのは青山雅紀だ。
彼は青山光名目上の夫である。彼は彼女の死を知ったとき、殉情した。
青山光はその時初めて、男が自分の手首を切り裂いていたことに気づいた。鮮血は瞬く間にシーツを赤く染めていく。
「やめて」青山光ははっと目を覚ました。
額には冷や汗が滲み、体は氷のように冷たい。目を開けると、そこは見覚えがあるようで、どこか見慣れない光景だった。
自分は死んだのではなかったか?
ここはどこ?
青山光はついに悟った。自分は生まれ変わったのだ。
生まれ変わったからには、青山光はあの二人に必ず代償を払わせると誓った。そして同時に、青山雅紀を守り抜くのだ。