チャプター 2
スカーレットは彼の声色にかすかな苦みを感じ取ったが、気のせいだと打ち消した。
胸の奥が落ち着かず、早く話を切り上げたかった。「変な質問ね。好きでもない相手と、どうして婚約なんてするの?」
彼の腕からすっと身を引き、背にもたれて、携帯電話をスクロールするふりをした。アレクサンダーの奇妙な追及を無視しようとしながら。
セバスチャンに想い人がいることは知っている。だが、それは問題ではなかった。
この婚約は、最初から恋愛のためではない。
セバスチャンには隠れ蓑が必要で、彼女には商売上の人脈が必要だった。互いに得をする取引であり、それ以上でもそれ以下でもない。
携帯の画面が眩しく光っていて、彼女はその明かりを借りてアレクサンダーの顔をしっかりと見た。
かつて、見ただけで目が眩んだ顔。
三年が過ぎ、その顔立ちは危ういほど魅力を増していた。輪郭は鋭さを増し、洗練された美貌が心臓を早鐘のように打たせる。
仕事人としての勘が動き、もしアレクサンダーが芸能界にいれば、どれほど稼がせられるだろうと考えずにはいられなかった。
アレクサンダーが嘲るように笑った。「まだ見とれてるのか?」
彼は彼女をじっと観察していた。感情の揺らぎの、ほんのわずかな変化すら見逃さない。
三年前のスカーレットなら、最も激しいベッドの最中でさえ、ぼんやり彼の顔を見つめていたはずだ。
彼女は両手で彼の顔を包み、恋に浮かれた愚か者みたいにくすくす笑って、「どうしてそんなに格好いいの、アレクサンダー?」と、瞼が落ちそうなくらい疲れていても尋ねた。
何ひとつ変わっていない。
スカーレットは恥ずかしくなり、話題を戻そうとした。「もう何年も経ったのに、キングさんがこんなに遠慮なしになるなんて、思わなかったわ」
アレクサンダーはスカーレットの目を見据えて言い返した。「遠慮がないんじゃない。お前の趣味がどれだけひどいか、ようやく分かっただけだ。手放してくれて助かった」
三年前は、彼に飽きた。今はセバスチャンが好きだと言う。
なんて見事な趣味だろう。
スカーレットは眉をひそめた。含みのある言い方が理解できない。
そのとき、隣の部屋から生々しい声が漏れてきた。
最初に聞こえたのは、エマの切実なすすり泣き――「セバスチャン……」
どうやら、十八禁の場面に突入したらしい。
援助者の私生活は本人の自由だと分かってはいても、セバスチャンの行動は、元彼の前で彼女の顔に泥を塗るようなものだった。
いつでもどこでも昂ぶるなんて、セバスチャンは正気を失ったのか。
契約書に「精神的苦痛」の条項を追加したくなる。
アレクサンダーが、ちょうどいいタイミングで口を開いた。「見ものだな?」
笑いたいのに、喉の奥に苦みが残った。
愛人が無慈悲に捨てられ、数年後、今度は援助者の女を連れて浮気現場を押さえに来る――そんな筋書き。
誰かがこんな馬鹿げた脚本を持ってきたら、彼女は自分のタレントに回そうとも思わない。なのに、それが今、自分の身に起きている。
たとえ、彼女の問題ではないとしても。
隣で「アダルト映画を撮っている」のは、セバスチャンの今の恋人、エマなのだから。
今日の婚約は、ブラック家がエマを受け入れないための、その場しのぎにすぎない。
スカーレットはアレクサンダーを見上げ、目を細め、平然を装って笑った。指先で彼のシャツのボタンを軽くなぞりながら言う。「好きな相手とそうしたくなるのは普通よ。昔だって、そうだったでしょう」
言いたかったのは、彼と自分のこと。
だが、今の彼女にそれを口にする資格はない。もし言えば、アレクサンダーは容赦なく嘲笑するに決まっていた。
スカーレットの繊細な顔に、苦い笑みが浮かんだ。
アレクサンダーは今にも正気を失いそうだった。
婚約の日に婚約者が浮気したというのに、彼女の反応がこれだと?
それとも、セバスチャンのことがそれほど好きなのか?
あそこまでセバスチャンを許せるなんて!
信じられない。
アレクサンダーは鼻で笑った。
離れていた三年間、再会したとき自分はスカーレットにどう向き合うのだろうと、何度も考えたことがある。
だが今となってははっきりした。彼女はうまくやっている。
そのうち、愛しい夫に愛人まで紹介しはじめるかもしれない。
うまくやれていないのは、自分だけだ。
アレクサンダーは一歩踏み出し、スカーレットを腕の中へ引き寄せた。右手で彼女の腰を強くつかむ。
スカーレットは痛みに顔をしかめ、目に涙を溜めた。「痛いわ」
アレクサンダーは反射的に力を緩めた。
彼女は昔のまま、相変わらずか弱い。
アレクサンダーにとってスカーレットの記憶は、甘くもあり、痛くもあった。
だが今日を境に、それは痛みだけになる。
彼はスカーレットのことを何もかも覚えているのに、彼女は彼を脇へ蹴りやり、もっとひどい男を選んだ。
愛のために?
スカーレットは、自分が一言言い返しただけで、アレクサンダーの胸の内にこれほどの思考が渦巻いたなど知る由もない。
「好きにしろ。俺の知ったことじゃない」アレクサンダーは嘲るように言い、手を引いて、冷えた無関心の顔に戻った。
彼女はその隙にするりと距離を取り、やっと息をついた。
なにしろ、彼女には仕事の倫理がある。
今のセバスチャンは彼女の出資者だ。ブラック家に、彼女がアレクサンダーと揉めているところなど見られて、セバスチャンの話を台無しにしたくない。
服装を整え、スカーレットは立ち去ることにした。
セバスチャンが忙しいなら、見知らぬ連中と時間をつぶしている必要はない。
ドアノブに手をかけ、真っ直ぐ帰るべきか、それとも事務所に寄って厄介な芸術家の件を片づけるべきか、と考える。
隣の部屋からさらに物音がして、セバスチャンが甘い囁きを落としているのが聞こえた。
恥ずかしさに足の指がきゅっと丸まり、スカーレットは逃げるように部屋を出た。
息が詰まる場所だ。
ブラック邸はあまりに辺鄙で、タクシーもつかまらない。スカーレットは会社の車を近くに待機させており、あと五分ほどで迎えが来る手はずになっていた。
アレクサンダーを避けながらブラック邸を出ると、横にマイバッハが滑り込むように停まった。
窓が下がり、アレクサンダーの冷ややかで貴族的な顔が現れる。「乗れ」
スカーレットの心臓が跳ね、慌てて断った。「結構です、キングさん。私の車がもうすぐ来ますから」
冗談じゃない。彼女はいま、アレクサンダーを疫病神のように避けている。彼の車に乗るなど、正気の沙汰ではない。
アレクサンダーは言った。「勝手にしろ。セバスチャンに頼まれて迎えに来た。自力で帰るなら、それでいい」
助手席から、アレクサンダーの助手であるマイク・スコットが口を挟んだ。「ですがキングさん、ブラックさんはさっき――」
アレクサンダーが鋭い目を向ける。
マイクは(余計なことを言った)と思った。
幸い、会社の車が到着した。
スカーレットには救世主が現れたように見えた。彼女はアレクサンダーに礼を述べた。「お申し出はありがとうございます、キングさん。でも車が来ましたので。お手数はおかけしません」
ハイヒールで駆け出し、会社の車に飛び乗る。
席に落ち着いた瞬間、ようやく鼓動が静まった。
アレクサンダーが絡むような事態を避けるためにも、セバスチャンとは追加契約を交わしておく必要がある。
彼女はアレクサンダーに会うのが怖かった。補償金を払って取り決めを終わらせたときの、あの表情を思い出すのが怖かった。
アレクサンダーは、きっと自分を憎んでいる。
