チャプター 7

スカーレットは眠っているあいだ、驚くほど穏やかな顔をしていた。

アレクサンダーはそっと彼女をベッドへ横たえ、その頬に触れた。熱い。火照るほどだ。

意識を失っていても、スカーレットは本能的に安らぎを求める。

たとえば、アレクサンダーの手のぬくもり。

眉をひそめ、彼の掌に頬をすり寄せると、柔らかく、満ち足りたような吐息がもれた。

唇が彼の手にかすり、アレクサンダーの眼差しがふっと暗く沈む。

胸の内のざわめきを押し殺しながら、彼はスカーレットが名残惜しそうに追いすがるのを振り切って、渋々手を引いた。

熱がある。医者を呼ぶべきだ。

そう自分に言い聞かせる。ふたりきりで共有している、この静謐なひとときを壊したくはなかったが。

だが、結局は心配が勝った。アレクサンダーは立ち上がり、身をかがめてスカーレットの額に口づける。

彼女にはそれが分かったのか、唇をわずかに開き、誰かの名を囁いた。

か細く、聞き取れるかどうかの声。それでもアレクサンダーには聞こえた。

「アレクサンダー」と呼んでいた。

彼の夢を見ているのか。

瞳孔が一瞬大きくなる。すぐに平静を取り戻すと、唇の端に自嘲気味な笑みが浮かんだ。

自分は彼女にとって、夢なのか。それとも悪夢なのか。

アレクサンダーが入っていくと、タイラーは子どものそばにいた。アレクサンダーが「熱がかなり高い」と告げると、タイラーは少し身構えたような顔をした。

「そう? 分かった、様子を見てくる。トレイシーと一緒にいてくれる?」

二人の視線が彼に向く。

トレイシーは怯えたようで、アレクサンダーは明らかに不機嫌だった。

だがタイラーはどちらも気にしない。

出ていく前に、茶目っ気たっぷりに付け加える。「キングさん、優しくしてあげてよ。トレイシーを怖がらせないで」

正直、元カノの子どもの面倒など見たくもない。だがトレイシーはまだ三歳にも満たない。部屋に一人きりで置いておくのは危険すぎる。

万一何かあれば、スカーレットは眠れなくなるどころか、きっと自分を憎むだろう。

それが分かっているからこそ、アレクサンダーは観念し、タイラーの座っていた場所に腰を下ろした。

トレイシーがじっと見つめてくる。

幼いとはいえ、美的感覚はあるらしい。目の前の背の高い男はとても整った顔立ちで、彼女はそれが好きだった。

ただ、表情が怖すぎる。

トレイシーははいはいをして近づき、青い瞳をきらめかせて愛想を振りまくように言った。「おじさん、すっごくかっこいいね」

アレクサンダーは彼女を見た。トレイシーは甘い笑みを浮かべ、その瞳は小さな海のようだった。

聞き覚えのある言葉だ。母親も同じことを言っていた。

母にして娘あり――どちらも小さな人たらしだ。

アレクサンダーは苛立ちに似た痛みを胸に覚えた。

返事をしないのを見て、トレイシーはもう一度試す。「おじさん、ママのこと好き?」

なんて妙な質問だ。

アレクサンダーは冷たい顔のまま答えた。「好きじゃない」

トレイシーは「ふうん」と間延びした声を出し、それから真面目な顔で言った。「じゃあ、好きじゃないならママを抱きしめちゃだめだよ」

さっきの口づけが脳裏によみがえり、アレクサンダーは妙な感覚を抑え込むように咳払いをした。

これ以上トレイシーに取り合う気はなくなり、彼はマイクに電話して、病院へ来て子どもを見ていろと命じた。

生真面目な部下は即座に答える。「はい、キング様。すぐに向かいます」

胸の内に好奇心が燃え上がるのを、彼は自覚していた。

夕暮れが沈みきるころ、スカーレットはようやく目を覚ました。

部屋は暗い。それでも、そばに誰かの影があるのがぼんやり見える。

反射的に起き上がろうとして呼んだ。「トレイシー?」

返事はない。

起き上がれなかった。

手足に力が入らず、思うように動かない。まるで自分のものではないみたいに。

暗闇の中でスカーレットは小さく息を吐いた。影がわずかに動き、温かな手が伸びてきて、彼女の額に触れた。

心臓が跳ね上がった。

最後の一筋の陽光が消え、部屋は闇に沈んだ。

スカーレットは目を閉じた。「アレクサンダー」

彼は小さく「うん……」と応じた。

ブラック家で再会して以来、二人はずっと噛み合わなかった。

片方は憎み、片方は避ける。だからこそ、この静けさはめったになく、ひどく貴重に思えた。

スカーレットの意識は、いつの間にか過去へと漂っていく。付き合い始めたばかりの頃へ。

アレクサンダーは見目がよく、所属していたフラタニティの行事にはいつも引っぱりだこだった。

期末試験が終わった直後、ようやく二人きりの時間が取れたのに、フラタニティが無理やり彼を連れ出そうとしたことがある。

スカーレットは行かせたくなくて、彼の袖にしがみつき、あれこれ理由をでっち上げた。

それでも彼が出て行ったあと、諦めきれずに、最優先だと言わんばかりの勢いで通話アプリに怒りのメッセージを送った。

[アレクサンダー、具合が悪いの]

それから携帯を放り、布団にもぐり込んで眠った。

まさか戻ってくるとは思っていなかった。うとうとした頭のまま、額に触れる手の感触を覚えた。

スカーレットはむにゃむにゃとつぶやく。「ほんとに、具合悪いんだってば」

彼は笑いをこらえながら、平熱のままの体温を確かめた。「そうだな、微熱だ」

その日、アレクサンダーは二度と出て行かなかった。

フラタニティの代表と電話で話す声が聞こえた。甘く、どこか甘やかすような口ぶりだった。「彼女の看病をしないと」

スカーレットは慌てて目を閉じ、こみ上げる涙を押し戻した。

別れてからの数年間、彼女は思い出すことを避けてきた。

最初のうちは、何もかもが重くのしかかり、息をすることさえままならなかった。

けれど目を閉じるたび、最後に会ったときの、血走ったアレクサンダーの目が浮かんだ。

彼女はよく思った。自分に出会ったことが、アレクサンダーにとって災難だったのだと。

スカーレットはそっと息を吐いた。「どうして電気つけなかったの?」

わずかに顔を向けると、アレクサンダーは驚いたように手を引いた。

次の瞬間、部屋がぱっと明るくなる。

スカーレットは無理に体を起こした。隣の部屋のトレイシーが気がかりで、様子を見に行きたかった。

アレクサンダーは冷たい目で彼女を見つめた。

熱は下がったばかりで、まともに休めていないのは明らかだった。全身が疲労と痛みで悲鳴を上げている。

それでも彼女は、あの小さな子を見に行くと言って譲らない。

立ち上がった途端、体がふらついた。アレクサンダーは反射的に前へ出て、彼女の腕をつかんだ。

倒れるのを防ぐために。

苛立ちが胸を突き上げる。「まだ病人だろ」

スカーレットは首を振った。「大丈夫。ありがとう」

また礼か。

アレクサンダーはうんざりしながらも、手を離さなかった。

距離を保ったまま彼女を支え、二人でトレイシーのところへ向かった。

マイクがトレイシーと遊んでいた。

子どもの扱いに慣れているらしく、おもちゃまで持ってきていて、トレイシーは上機嫌で夢中になっている。

トレイシーが最初にスカーレットを見つけ、うれしそうにおもちゃを落として駆け寄った。「ママ!」

スカーレットはすぐ止めた。「来ちゃだめ。まだ治ってないの」

トレイシーは足を止め、頬をふくらませる。

マイクは少し驚いた。

前に来たとき、トレイシーは眠っていた。関係について推測はしたものの、打ち消していたのだ。

何しろ、アレクサンダーが女にあんなに気を配るところなど、初めて見たのだから。

「ママ」と呼ばれて、思わず耳を疑った。

振り向いて、その光景に目を見張る。

上司のアレクサンダーが、険しい顔で立っていて、トレイシーが「ママ」と呼んだ女を支えている。

苛立っているように見えるのに、心配しているのがありありと伝わってくる。

アレクサンダーが、こんなことをするなんて。

あの人、口ほどにもないくらい気にしてるじゃないか。

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