第5章

 札幌の風は強く、微かに潮の香りを孕んでいた。

 あれから二ヶ月が経つ。

 私は七年間伸ばし続けた長い髪を切り落とし、今は活動的なショートヘアにしている。

 今の私は、『雲築設計』のチーフデザイナーだ。

 多忙な日々が思考を埋め尽くしてくれるおかげで、あの忌々しい出来事を思い出さずに済んでいる。

 恩師は親身になってくれるし、同僚たちも皆、友好的だ。何よりここでは、誰も私を「誰かの付属品」として見たりしない。私はただの花村莉緒。一人の有能なデザイナーとして存在していられる。

「花村さん、クライアントが今回のプランをすごく気に入ってくれて、是非お会いしたいそうです!」

 アシスタ...

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