第54章

宮原知子は追いかけなかった。しゃがみ込み、長川直志を見つめて言う。

「もう大丈夫。悪い人はおばさんが追い払ったからね」

子どもはまだ泣いていた。ひくひくと肩を震わせ、小さな手で彼女の服をぎゅっと掴む。置いていかれるのが怖いのだ。

胸がきゅっと痛んで、宮原知子はそっと抱き上げた。

「泣かないで。これ以上泣いたら、目が腫れて痛くなっちゃうよ」

長川直志は彼女の肩に顔をうずめ、細い腕で首にしがみつく。ほとんど聞こえない声で、ぽつりとこぼした。

「おばさん……先に行かないで。ちょっとだけ、ここにいて……」

迷惑をかけていると思っているのだろう。声は弱々しく、耳を澄ませなければ聞き逃しそ...

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