第68章

薬で神経が立っていた馬は、痛みと刺激でいっそう昂ぶり――その瞬間、完全に理性を失った。

前脚を高く振り上げ、耳をつんざくような嘶きを上げると、向きを変えて宮原知子へ突進してくる。

『きゃっ! 危ない!』

周囲から悲鳴が上がった。

反対側の柵の内側にいた長川直志は、顔面蒼白で叫ぶ。

『姉ちゃん、逃げて!』

宮原知子もまさか、こんなことになるとは思っていなかった。反射的に後ずさろうとする。

けれど、この距離では――間に合わない。

『危ない!』

刹那、力強い腕が腰を抱き寄せ、ぐいっと後ろへ引き抜いた。

『あっ——』

声が漏れた次の瞬間、よろめいた身体が男の胸にぶつかる。鼻先を...

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