第70章

長川輝夫の掌は温かく、手綱を握る宮原知子の手の上にそっと重なった。その瞬間、彼女の指先がびくりと縮こまる。

宮原知子は一拍置いてから言った。『ありがとうございます、長川様。……でも、やっぱり自分で乗ります』

『力を抜け』

不意に、長川輝夫がもう一度、低く告げた。

掠れる声が耳朶をなぞる。『お前が緊張すればするほど、馬はそれを感じ取る。余計に暴れやすくなる』

宮原知子は深く息を吸い、こわばっていた肩と首を意識して落とした。

距離が近い。彼の身体から漂う、冷えた水みたいに澄んだ匂いがはっきりと分かって、理由もなく胸がざわつく。

長川輝夫は馬の横に立ち、時折、彼女の腰に指先を添えた。...

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