第78章

宮原知子には、彼の胸の内を推し量っている暇なんてなかった。

バッグを提げると、さっさとロビーへ入っていく。

もし誰かに、彼女が長川輝夫と一緒に車を降りたところを見られでもしたら――どんな噂にされるかわかったものじゃない。

今の自分の立場では……注目されるのは、少ないほどいい。

そのとき。

長川輝夫の秘書が、すでにロビーで待っていた。

彼は宮原知子をデザイン部へ案内し、臨時の席を用意する。

『宮原さん、何か必要なことがあれば、いつでもお声がけください』

『ありがとうございます』

必要な書類は一通り揃っている。

宮原知子は席に着くなり、照合を始めようとした。

ふいに、甘った...

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