第86章

「別に……たまたま会って、少し話しただけ」

宮原知子はそれ以上触れたくなくて、くるりと踵を返し、そのまま階段へ向かった。

岸江立人も深追いはしなかった。ただ、低い声で念を押す。

「長川輝夫は腹の底が読めない。長川家もいろいろと厄介だ。これからはできるだけ関わるな。自分の身を守れ」

「わかってる」

ほどなくして――

書斎の前。

岸江立人が軽く扉を叩くと、中から藤原お爺様の落ち着いた声が返ってきた。

「入りなさい」

扉を開けると、藤原お爺様は机に向かって座っていた。二人の姿を認めると、穏やかな笑みを浮かべる。

「来たか。どうだ、帰国したばかりだが、もう慣れたか?」

藤原お爺...

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