第94章

車内の空気が、ぴたりと固まった。

宮原知子は協業契約書を指先でつまみ上げ、こみ上げる苦笑を噛み殺す。

見慣れた通りへ車が入っていくのを横目に、彼女は隣へ視線を投げた。

「長川様って、本当に人の弱みにつけ込むのがお上手ですね。だからこそ、グループをここまで大きくできたんでしょうけど」

長川輝夫は気だるげに返す。

「困ってる顔だな、宮原さん。さっき廊下にいたときの素直さはどこへ行った? 車に乗った途端、やっぱりやめますってか」

宮原知子は奥歯をきゅっと噛んだ。

――やっぱり。長川輝夫みたいな腹の底が読めない狐と比べたら、自分はまだ甘い。

けれど、相手が岸江家に絡む案件となれば話は...

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