第99章

宮原知子の視線が床に落ちた、その瞬間――瞳がわずかに縮んだ。

一面に散らばったガラス片を見下ろしながら、どんな気持ちなのか自分でもわからない。ただ、胸の奥に残っていた温度だけが、すうっと抜けていくようだった。

あの手描きの花瓶……そこには、彼女の青春と、いちばん綺麗だった時間が全部詰まっている。

これまで、荷物はいくつも手放してきた。物だって、数え切れないほど捨てた。

それでも、この花瓶だけは違った。ずっと、壊さないように、抱えるようにして連れてきた。

海外へ出て、また帰国しても――欠けひとつ、つけなかったのに。

「長川輝夫」

宮原知子の声は静かだった。静かすぎるほどに、押し殺...

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