第2章

西村本家から東山霊園までの道のりはそう遠くないはずだが、今日に限ってはひどく長く感じられた。

後部座席に座っていると、祇園の町家が連なる景色が次第に遠ざかり、代わりに色づき始めた山林が広がっていく。

頬がまだじんわりと痛む。

昨夜、平手打ちを食らった後、叔母は怒りで全身を震わせ、甲高い声で西村家の叔母や伯母たちを数人呼びつけた。

彼女たちは私を取り囲み、口々に私の「無礼」と「恩知らず」を非難した。

混乱の中、誰かが私を突き飛ばし、誰かが腕を引っぱった。

私の顔は爪で引っ掻かれ、顎は茶卓の角にぶつけて青紫の痣になった。

安信はただその傍らに立ち、全てを冷ややかに傍観していた。

私が畳の上に倒れ込んだ時でさえ、彼は手を差し伸べようともしなかった。

「もうよい」

最後に駆けつけたのは西村のお父様だった。彼は伝家の竹杖で床を強く叩きつける。

「今日は桜の葬儀だぞ。なんという様だ!」

しかし、お父様の怒声でさえ、私の心に一片の温もりももたらしてはくれなかった。

今、霊園へ向かうこの黒塗りの車の中で、私はまるで生きる屍のようだった。

安信は隣に座っているが、私たちの間には京都全土を隔てているかのような距離があった。

突然、彼の携帯電話の着信音が鳴った。

画面に表示された名前が目に入る——霜子。

こんな時に? 桜を埋葬しに行く、この道中で?

「ああ、俺だ」

安信はそれでも電話に出た。

「もう数日かかる。先に帰っててくれ。こっちの用事が片付いたら、そっちに行くから」

私は窓ガラスを伝う雨粒をただじっと見つめ、彼らの会話が耳に入らないよう必死に努めた。

だが、彼の一言一句が鋼の針のように私の鼓膜を突き刺す。

「もちろんだ。お前に約束したことは変わらない」

安信は、私が一度も聞いたことのない甘やかな声色で続ける。

「これが全部終わったら、俺たちは正式に……」

爪が掌に深く食い込む。しかし、身体はすでに麻痺して痛みさえ感じなかった。

息子の葬儀に向かう道すがら、彼が考えているのは悲しみでも、罪悪感でもなく、いかにしてこのすべてを早く終わらせ、彼の高嶺の花のもとへ駆けつけるかということだった。

不意に、安信が携帯電話を私の目の前に突き出した。

「霜子が話したいそうだ」

私は一瞬、呆然とした。

かつて、同じような雨の日があった。安信は霜子からの電話を受けた後、こう言ったのだ。

「彼女が隣にいるわけないだろう。信じられないならビデオ通話してやる」

そう言って、彼は私を車から叩き出した。

あの日、私は雪の中を二時間も歩いて家に帰り着き、手足は感覚を失うほど凍えていた。

桜は私を見るなり、張り裂けんばかりに泣きじゃくった。

「ママ、桜のこと、もういらないの?」

私は彼を抱きしめ、心が引き裂かれる思いで約束した。

「ママは、絶対に桜から離れたりしないわ」

今、桜はもういない。安信ももう、何も気兼ねする必要はないのだ。

私は意外にも、素直に電話を受け取った。

「知春さん?」

受話器から霜子の声が聞こえてくる。柔らかく甘美で、京都のお嬢様特有の優雅な響きを帯びていた。

「ええ、私です」

「お子さんを亡くされたと伺いました。お変わりありませんか?」

その口調は気遣わしげだったが、そこに隠された愉悦を感じ取ることができた。

私は目を閉じる。初めて霜子に会った時のことを思い出した。彼女は白い着物を纏い、私の隣に座る安信は、一瞬たりとも彼女から目を離そうとしなかった。

「子供がいなくなって、あなたにまだ西村家に残るための切り札なんてあるのかしら?」

霜子の言葉は柔らかいが、一言一句が心を抉る。

私は目を開け、窓の外のまばらになっていく建物を眺めながら、絶望的な安堵感が胸に込み上げてくるのを感じた。

「彼を、お返しします」

霜子は私の返答に意表を突かれたようだ。一瞬の間を置いてから言った。

「……なんですって?」

「安信さんのことです」

自分の声が、自分でも知らないほどに平坦だった。

「彼を、あなたにお返しします。……いいえ、失礼。間違えましたわ。彼はもとより、あなたのものですから」

車内が、しんと静まり返った。

安信が、はっとしたように私を振り返る。その目には驚愕の色が浮かんでいた。

「知春さん、あなた……」

霜子の声に、狼狽の色が混じる。

おそらく彼女は、ただ自分の勝利を誇示しに来ただけだったのだろう。私がこれほどあっさりと負けを認めるとは、夢にも思わなかったに違いない。

安信が乱暴に携帯電話をひったくり、通話を切った。

「また霜子に何をくだらないことを言ってるんだ!」

彼の声には怒気が含まれていた。

私は彼の方を向く。かつて深く愛したこの男を。桜が五年もの間「パパ」と呼んだこの男を。

「くだらないことなんて言っていません」

私の声は、依然として平坦なままだった。

「ただ、事実を言っただけです」

安信の顔つきが複雑に変わる。

「知春、意地を張るな」

意地を張る?

私は、ふと笑いたくなった。

桜が生まれてから今日まで、私が堪え忍ばなかった日が一日でもあっただろうか? 私が自分を殺して全てを受け入れなかったことが、一度でもあっただろうか?

それなのに今、彼は私に意地を張るなと言うのか?

車はゆっくりと東山霊園の門をくぐった。

ここは京都で最も古い霊園の一つで、青石畳の道の両脇には桜の木が植えられている。

今は秋だが、春になればどれほど美しい光景が広がるか、想像に難くない。

桜は生前、桜の花が一番好きだった。

いつも私に尋ねてきた。

「ママ、僕の名前って、桜の花から来てるの?」

私はいつも笑って頷いた。

「そうよ。桜が、桜の花みたいに綺麗だから」

今、私の桜は、この桜の木々の下で永遠の眠りにつくのだ。

霧雨が降る中、私たちは桜の墓の前にたどり着いた。

墓石は黒い花崗岩で、そこには「桜之墓」と刻まれている。

墓石には桜が三歳の時に撮った写真がはめ込まれていた。伝統的な袴姿で、無邪気に笑っている。

あれは、ある秋の日の午後だったことを覚えている。写真家が家族写真を撮ると言った。

私と桜は午後一時から夜七時まで待ったが、安信はついに現れなかった。

最後に写真家が痺れを切らして言った。

「もう、お子さんだけで何枚か撮りましょうか」

桜はがっかりして俯き、小さな声で私に尋ねた。

「ママ、パパは僕たちと写真を撮るの、嫌なのかな?」

私はしゃがみ込み、彼の袴の皺を直しながら言った。

「パパはとても忙しいの。桜は分かってあげないとね」

今、墓石の上のその孤独な写真を見つめていると、心が引き裂かれるように痛んだ。

桜、ママはあなたに申し訳ないことをしたわ。

生まれてからずっと、受けるべきではなかった冷たさに耐えさせ、父の愛への渇望を抱いたまま、この世を去らせてしまった。

私は墓前に跪き、手を合わせ、心の中で静かに祈った。

「もし本当に来世があるのなら、桜が、本当に愛してくれる家族のもとに生まれ変われますように。あなたを可愛がってくれるパパとママがいるところに……」

その時、安信が墓前に歩み寄り、綺麗に包装された箱を置くのが見えた。

それは、レーシングカーのブロックセットだった。

私は呆然とした。

「これは……?」

安信は私を見ず、低い声で言った。

「桜への誕生日プレゼントだ。前に欲しいと言っていたんだが、間に合わなくて……」

目の前が、ぐらりと揺れた。

桜の五歳の誕生日、私はこっそり玩具店へ行ってプレゼントを買い、桜にはパパが買ってくれたものだと伝えた。

桜は飛び上がらんばかりに喜び、ブロックを抱きしめて言った。

「ママ、やっぱりパパは僕のこと愛してくれてるんだ! パパに電話してお礼を言う!」

しかし、その電話に安信が出ることはなかった。

桜は受話器を耳に当てたまま長いこと待ち、最後にがっかりしたようにそれを置いた。

「パパ、きっと大事な用事があるんだね」

今になって、やっと分かった。桜はとっくに、私の優しい嘘を見抜いていたのだ。

あれがパパの買ったプレゼントではないと知っていながら、それでも彼は笑顔で受け取り、さらにパパにお礼の電話までしようとしてくれた。

あの五歳の子供は、その純粋な優しさで、大人の世界の残酷さを包み込んでくれていたのだ。

私は墓前に崩れ落ち、涙が雨粒のように青石畳に落ちた。

「桜……」

私の声は嗚咽で途切れ途切れになる。

「ごめんね、ママ、本当にごめんなさい……」

もし私がもっと早くに安信の本性を見抜いていたら、もし私がもっと早くにあなたを連れてあの冷たい家を出ていたら、あなたはこんなことに……。

雨水が涙と混じり合い、私の視界をぼやけさせていく。

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