第9章
ドアを叩く音と、男の怒声が私を昏睡から引き戻した。
酸素マスクを着けている。一呼吸ごとに、ありったけの力を振り絞っているかのようだ。目の前はぼんやりと霞み、廊下から聞こえてくる激しい口論の声だけが耳に届く。
「彼女は俺の妻だ! 病気だったのに、なぜ俺に教えなかったんだ!」
安信の声が廊下に響き渡る。そこには、私が今まで聞いたことのない絶望が滲んでいた。
続いて、森儀光の冷笑が聞こえる。
「彼女が、あなたの妻? 彼女が死にかけている今になって、胃癌だったと知ったのですか?」
「知らなかったんだ……」
「知らなかった?」
森儀光の声がオクターブ上がる。
「二ヶ月前、私...
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