第60章

「あっ……」

橘鈴は普段から甘やかされて育ったため、抵抗する力など全くなく、美咲の思うままに扱われるしかなかった。

一回のやり取りで、橘鈴が丹精込めて整えた髪型とメイクは台無しになってしまった。

「あなた……」橘鈴は今や美咲を押しのけることなど考えられず、ただ洗面台に両手をついて、少しでも楽になろうともがくだけだった。

青木雨は傍らで呆然と見ていたが、我に返ると床から立ち上がり、美咲に飛びかかった。

まるで背中に目でもあるかのように、美咲は青木雨が飛びかかってきた瞬間、横に身をかわした。そうすることで右手にさらに力が入り、橘鈴の頭は強い力で完全に水中へと沈められた。

息の通わない...

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