第137話 春奈が呼吸マスクを引き抜いた夜、勝三は二度と目を覚まさなかった

遠野家には、三百十億円の入札保証金を埋める術がなかった。

債権者側は催告状の送付をやめ、直接訪問に切り替えた。二時間おきに業者が入れ替わり、遠野建設本社の正面玄関を塞いだ。資金繰りが完全に停止したという報せは、一時間とかからず関東の地方ニュースと経済欄を駆け巡った。

健吾は本社最上階の会議室で、三つ目の灰皿を床に叩きつけた。

春奈はソファの前を行ったり来たりしながら、ありえない、絶対にありえないと繰り返す。咲良はスマホを眺めていたが、匿名掲示板で遠野家を嘲笑う書き込みを見つけ、壁に向かって投げつけた。

夜が更けてから、健吾は春奈と咲良を連れ、聖華総合病院の特別療養フロアへ押し入った。

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