第30話 鷹司貴彦が自ら出向いて縁談を持ちかける

赤信号。車がゆっくり止まる。貴彦は前を向いたまま、ハンドルから手を離さない。

「今日はありがとう。君が来てくれて、雅代もきっと喜んでいる」

凛は脈が僅かに跳ねるのを感じた。

雅代。鷹司家の主母。三年前の事故から、一度も目を覚ましていない。聖華総合病院最上階のVIP病室。二十四時間看護態勢。主治医は柊隆史——それらの情報が脳裏をよぎり、すぐに押し込まれる。

「お役に立てたなら、それで」

「それだけか」貴彦は小さく笑った。「隼人のやつ、あんなに緊張しているのは久しぶりでね」

青信号。車が再び動き出す。

「君のことはしばらく見ていた。九条家の背景というだけじゃない。君自身の立ち居振る舞...

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