第34話 百キロの元部長、片手で沈む

車内。

隼人は凛の手を握り、親指の腹で彼女の手の甲をゆるく撫でていた。無意識の癖のような、ごく軽い力だった。車内は静かで、互いの呼吸の気配だけが聞こえる。

「凛」

「うん」

隼人は一拍おいて、横を向いた。いつもの冷淡で抑制のきいた目つきとは違う。言葉を選んでいるようでもあった。

「先に言っておきたいことがある」

「なに」

「お前の前に、女はいない」

凛の指がわずかに固くなった。

隼人は視線を外さない。照合済みの帳簿を読み上げるような、平坦な口調だった。

「過去も、今もだ。だから、どこかで妙な女が湧いて出てお前に面倒をかける心配はない」

凛は二秒ほど黙った。「急にどうしたの...

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