第63話 結衣と咲良が崇拝する舞踊家は、彼女自身だった

氷見雪絵は膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。額を冷たい板張りの床に押しつけ、白髪交じりの髻が乱れた。

「私が用意しました……あの検査薬は、事前に袖に隠していました。慌てて落としてしまい、凛お嬢さまのお召し物から出てきたと偽ったのです」

優香は彼女を伏し目に見た。声に抑揚はない。

「手口は稚拙。けれど、その悪意は十分に下劣だ」

「奥さま、どうかお許しください」氷見は額を床にこすりつけ、声を震わせた。「今後、凛お嬢さまのおられる場所には二度と足を踏み入れません。お嬢さまを煩わせることもいたしません。どうか内々の処分で」

優香はすぐには応じなかった。九条家に十八年仕えたこの女を見つめ、そ...

ログインして続きを読む