第68話 咲良は群衆の中で、最も会いたくない顔を見た

結衣は反射的に詰め寄る声を上げようとした。が、周囲には記者がひしめいている。わずかな失態も撮られ、拡散され、明日の一面になりかねない。出かかった声を喉の奥で押し殺し、ニックが人混みを抜けて凛の前で足を止めるのを、彼女はただ見つめるしかなかった。

ニックが何か短く囁く。彼が横に身を引き、道を空ける仕草には、胸がつかえるほど明白な恭しさが滲んでいた。

メディアの焦点はまさに自分に向けられている。それなのに、結衣はしばらくその場から動けなかった。

廊下に出ると、ニックは凛の後を追い、声を潜めた。

「九条さん、専用のボックス席をご用意させていただきましたが——」

「いらない」

凛は足を止め...

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