第74話 全会場の視線がニックと共に、一人の人物へと向けられた

ニック・ハリスの言葉が終わると同時に、会場全体が一瞬で沸騰したかのようだった。

「リハーサル映像に映っていた、あの生成りの稽古着を着た女性こそ、伝説の『朧月夜』本人だ。宣伝でもなければ、代役でもない。本人が来ているんだ」

彼は舞台中央でマイクを握り、淡々とした口調だった。だが、その一言一言がハンマーのように会場の一人ひとりの耳へ叩き込まれた。会場は半秒静まり返り、直後に大きな喧騒に飲み込まれた。人々は顔を見合わせ、ささやき声が瞬く間に広がっていった。

「本人?冗談だろ」

「映像の女、あんなに若かったのに。あの国宝級の芸術家のはずがない」

「でもあの動きを見たか?あの体の制御力、普通の人間...

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