第87話 父親の拳が顔を殴り 母の平手が最後の僥倖を潰した

着信画面には拘置施設の番号が表示されていた。

耳に当てた瞬間、沢田天馬のしわがれた声が受話器から飛び込んでくる。悲鳴に近い響きだった。

「九条当主!助けてください!これは罠なんです!九条凛、あの女が仕組んだことなんです!あの女が——」

聞くに堪えない言葉がいくつも飛び出してくる。

貴弘の指が白くなるほど強く握られた。手の甲に浮いた血管が皮膚を突き破りそうだった。顔から血の気が引き、目には温度がなかった。

受話器の向こうでは泣き声と支離滅裂な罵倒がまだ続いている。

貴弘は何も言わず、通話を切った。

書斎は静まりかえり、通話終了のかすかな電子音だけが響いた。背もたれに寄りかかって目を...

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