第88話 彼女は割烹店で采配を振るう——琴音を国際ジュエリーコンペへ

ケイティは口元を両手で覆った。自らの声量を制御できなくなるのを恐れているようだった。顔を上げたとき、目尻は赤く染まり、全身が細かく震えていた。

「これがあれば、碧華は明日、二度と立ち上がれない」

凛はその書類に目をやらず、手元のコーヒーを口へ運んだ。冷めた液体が唇を滑り落ちた。凛は目を伏せた。

「だから、急がない」

ケイティは深く頷いた。

慎重な手つきで書類を封筒へ戻した。先ほどまでの激しい感情の起伏が嘘のように静かな手つきだった。社長室の照明は落とされ、外と遮断された空気が漂っていた。凛は背もたれに寄りかかり、床から天井へと続く窓の外に視線を投げていた。夜はすっかり更けていた。

...

ログインして続きを読む