第93話 海辺で襲われ、刀を持つ者の手首を片手で制す

廊下には低照度のブラケットライトが数灯だけ点っていた。龍介は足音を忍ばせて階段口へ歩いた。玄関では老執事の千川忠次が凛のトレンチコートを受け取っている。

「夜食をご用意しましょうか」

千川が声を潜めた。

「いらない。疲れただけ」

凛は片手を振り、嗄れた声で答える。廊下の奥へは目もくれず、そのまま二階へ上がっていった。足音が一段ずつ上へ消え、やがて二階の闇に吸い込まれる。

龍介は暗がりに立ち、壁に添えた指を最後まで強く握ることはなかった。その音が完全に消えるのを待って、踵を返し書斎へ戻った。

朝、朝食の席。

結衣は三十分早く起き、落ち着いた色合いの部屋着に着替えていた。昨夜は龍介の...

ログインして続きを読む