第97話 龍介は知る——彼女こそ幻月

龍介は答えず、書類をもう半寸だけ相手側へ押し出した。

一条拓海はようやく視線を外し、小さく頷いて立ち上がる。足音が遠ざかっていった。

龍介は手元のグラスを口に運び、一口含んだ。冷水が喉を落ちていく。それでも胸の奥に燻る苛立ちは消えない。グラスを戻し、改めてステージへ視線を向けた。

凛は琴音の傍らに立ち、琴音が道具を選ぶのを静かに見守っていた。その横顔は冷たいほどに落ち着いている。龍介には、いま胸の底に蟠るこの焦燥がどこから来るのか、上手く説明できそうになかった。一条拓海の言葉は正しい。あのような応対は、たしかに彼の普段のやり方ではなかった。

「九条社長」

隣に再び人影が座る。曾根崎だ...

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