第146章

西園寺千枝が落ちた水筒を拾って手渡すと、そのまま踵を返して立ち去ろうとした。

「すみません、ちょっと待ってください!」

車椅子の男が呼び止める。声には、どこか焦りが滲んでいた。

千枝は足を止め、訝しげに男を見やる。

昨夜は一晩中雨が降り、今日になってようやく午後から晴れた。雨上がりの空の下、彼女の潤んだ大きな瞳はいっそう澄みわたり、光を映してきらめいている。

その目を向けられただけで、男の胸の奥に、ぬるい泉のような親しさがじわり、じわりと湧き上がった。

「はじめまして。雪見裕也と申します」

車椅子に座ったまま顔を上げ、男は一語ずつ区切るように名乗った。

千枝は小さく頷く。

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